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2014年1月 1日 (水)

屠蘇の成分をカタカナで言ってみる

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あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

さて、お正月に欠かせない飲み物食べ物はいろいろありますが、多くの日本人が元旦の最初に接する飲み物は屠蘇(とそ)でしょう。

薬局で買ってきた屠蘇散のパッケージを見ると、いろんな漢方薬の名前が書いてあります。今回はアームチェア・ボタニスト(植物学者)となって、この漢方薬の素性を掘り下げてみたいと思います。

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パッケージにある原材料はつぎのとおり。

桂皮、山椒、陳皮、桔梗、大茴香、丁字、浜防風

これらについて、植物図鑑に載っている名前は何で、何の仲間で、分布はどこか、木なのか草なのか常緑か落葉かを、おもに日本薬学会という団体の「薬用植物一覧」というウェブサイトを中心に、中国のハーブを解説した本(J. D. Keys 1976. Chinese Herbs Their Botany, Chemistry, and Pharmacodynamics. Charles E. Tuttle Co., Tokyo.)や日本の植物図鑑なども適宜参照して調べてみました。そして、庭いじりをガーデニングというごとく、カタカナで言うとおしゃれに聞こえてしまう日本人の弱みにつけこむべく(つけこんでどうする?)、上記情報源のほかウェブなども見て調べた、欧米の名称由来のカタカナの呼び名も書いてみたいと思います。

 

【桂皮】 カシア

和名:シナニッケイ 学名:Cinnamonum cassia (科名:クスノキ科)分布:中国南部 常緑高木

「薬用植物一覧」によると、生薬としての桂皮は本種の樹皮だが、お菓子の香り付けに使うシナモンは近縁のセイロンニッケイC. zeylanicum(インド、スリランカ)、根の皮を京都名物の「八つ橋」の香りづけに使うのはニッケイ C. sieboldii (別名ニッキ;中国南部、台湾。日本では暖地に栽培)だそうです。セイロンニッケイとニッケイは薬用としては品質が劣るが、セイロンニッケイはやや甘みがあり、ニッケイは辛みが強いそうな。シナモンもニッキも(漢方薬も)同じものかと思っていましたが、ちょっとずつ違うんですね。シナニッケイは、発汗・解熱、鎮静・鎮痙を目的とした葛根湯などに配剤されているそうです。

 

【山椒】 プリックリー・アッシュ

和名:サンショウ 学名:Zanthoxylum piperitum (科名:ミカン科)分布:日本・朝鮮半島 低木性の夏緑(落葉)広葉樹

上記の中国のハーブの本では英名をJapanese Prickly Ashとしています。ただPrickly Ash とだけいうと狭義には同属の北アメリカ産の種をさすようです。プリックリーPricklyは「トゲのある」でアッシュAshはトネリコやアオダモの仲間のことなので、葉の形が羽状複葉という共通の特徴から、サンショウの仲間を「トゲのあるトネリコ」と言ったのですね(トネリコとサンショウに類縁があるわけではないのですが)。サンショウは成熟した果皮を辛味性芳香性健胃薬とするそうです( 「薬用植物一覧」)。

 

【陳皮】 オレンジ・ピール

和名:ウンシュウミカン 学名:Citrus unshiu (科名:ミカン科)分布:日本(栽培) 常緑の小高木

「薬用植物一覧」によると、和名のウンシュウは柑橘類の名産地だった中国浙江省温州にちなんだ名前だが、本種は現在、日本原産と考えられているそうです(日本原産といっても日本の山野に祖先となった種が野生しているわけではなく、栽培されていた柑橘類から突然変異でできた、ということのようですね)。成熟した果皮が陳皮(ちんぴ)で、芳香性健胃薬とするとのこと。ピールは皮のことで、カタカナのオレンジ・ピールはウンシュウミカンに限らず、広くいろいろな柑橘類の皮がそう呼ばれるでしょうね(陳皮のほうは、厚生省のさだめる薬品の規格「日本薬局方」ではウンシュウミカンの皮のみが認められているようです)。インターネットの事典を見てみると、各種のミカンの類いの果皮を乾燥させたのが「橘皮(きっぴ)」で、これを数年間寝かせたものを「陳皮」というとの解説があります(コトバンク「漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典」(講談社))。「陳」は陳腐の陳で古いという意味ですね。

 

【桔梗】 プラティコドン

和名:キキョウ 学名:Platycodon grandiflorum (科名:キキョウ科)分布:東アジア 多年草

花屋さんでおなじみのキキョウです。根が消炎排膿や鎮咳去痰を目的として配剤されるとのこと(「薬用植物一覧」)。

 

【大茴香】 スター・アニス

和名:ダイウイキョウ 学名:Illicium verum (科名:シキミ科)分布:ベトナム・中国南部 常緑高木

中華料理の八角ですね。スター(星)・アニスも八角も果実の形に由来した名称なんですね。なるほどこれは「スター」だなという画像がこちらのキュー植物園(イギリス)のページで見られます。アニスAnise は果実を香辛料として用いる地中海沿岸原産のセリ科の一年草で、ダイウイキョウはこれと香りが似ていることと星形の果実から、スター・アニスStar Anise となったようです。やや未熟な果実を芳香性健胃薬、興奮薬としてもちいるそうです(「薬用植物一覧」)。

 

【丁字】 クローブ

和名:チョウジノキ 学名:Syzygium aromaticum (科名:フトモモ科)分布:モルッカ諸島 常緑高木

丁字(チョウジ)は大航海時代にアジアに競って進出したヨーロッパ人を突き動かした東洋の香料として、コショウ、ニッケイなどといっしょに世界史の本にも名前が出てきます。日本にも奈良時代にはすでに入っていたそうな。開花少し前のつぼみが、芳香性健胃薬、歯科領域の鎮痛薬などいろいろの目的に使われるとのこと(「薬用植物一覧」)。釘みたいな「丁」の字の形をした香料の画像がキュー植物園のページで見られます。辞書によると、クローブという英名はラテン語で釘を意味するclavusに由来するとのこと(「コリンズ・アメリカ英語辞典」)。

 

【浜防風】 グレニア

和名:ハマボウフウ 学名:Glehnia littoralis (科名:セリ科) 分布:台湾、日本、朝鮮半島、中国、ウスリー、オホーツク海沿岸 多年性草本

根や根茎が、解熱や鎮痛薬、また入浴剤としても利用されるそうです(「薬用植物一覧」)。

 

な〜るほど、こんな植物が入ってるんですか・・。それぞれの効能を見ると、屠蘇が一種の保健薬、健康ドリンクであることがわかりますね。「24時間戦えますか!」といった激しいものではなく、「日々をつつがなく健康に」という願いが込められているようです。

 

さて、冒頭にふれましたが「庭いじりをガーデニングというごとく」、このなかからカタカナの名前だけあつめるとなかなかです。「ニュー・イヤーズ・デイのブレックファストの前にはカシア、プリックリー・アッシュ、オレンジ・ピール、プラティコドン、スター・アニス、クローブ、グレニアなんていうスパイスやハーブをライスワインにつけ込んだものを飲むのがジャパニーズ・ピープルのトラディションなんだよ」と言うと(誰に言う?!)なかなかおしゃれかもしれません(笑)。

(※丁字の画像をリンクし、cloveの語源について引用していたイギリス自然史博物館のページが再編成でリンク切れになっているのに気づきましたので、新たなリンク先に貼り直しました。<2015年10月3日>)

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コメント

アイはリードしてラフしちゃいました

Susumuさんにラフしていただきオナードに感じます。インテンデッド・ポット(思うつぼ)とも言うかも・・(笑)

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