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2012年12月16日 (日)

笑っちゃいけない、ギソザソマシコ!

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他の人の間違いをあげつらって笑うなどということは、立派な人間のすることではないでしょう。また、印刷物が刷り上がって、さあこれから配布というときに重大な誤植を見つけてしまったときの、いや〜な汗が流れる感じは経験者でなければわからないかもしれません。それにもかかわらず、画像の「ギソザソマシコ」に気づいてしまってから、ときどき口がむずむずして、「誰かに話したい」という欲求を抑えがたく感じてきました。

鳥の種名の誤植のうち、調査報告書で種名が入れ替わってしまったなどという例は大変ですが、もとの種名がわかる類いのものは、害が比較的少ないのじゃないかと思います(本当か?)。自分でも仕事で原稿を書いたり、編集したりすることもあり、実際に誤植で冷や汗をかいたこともあるのに、誤植をブログのたねにするなんて、天に向かって唾するに等しい行為かもしれませんが、ここでは鳥の種名の笑える誤植をいくつかご紹介します(すみませんっ、先生方、先輩方、編集者、関係者のみなさん!)。

鳥の種名の誤植でわりによく聞くのものとして例えば、タカの一種「ノスリ」を「ノリス」としてある誤植があり、なるほど哺乳類の「リス」との混同なのかなと推測できますが、ここではそういったのより少し上級(?)コースの意外性を求めてみましょう。

冒頭の「ギソザソマシコ」は、日本鳥類学史上の巨人、山階芳麿の著作から、日本の鳥の三大図鑑のひとつに挙げられる「日本の鳥類と其の生態」第1巻(1934, 梓書房)のギンザンマシコの項の見出しです。この本は現代でも博物館学芸員や、渡り経路などを調べる標識調査(注)に従事する人たち必携の重要文献で、有用性の寿命がこのように長いことは、山階博士の研究がいかにしっかりしたものであるかを示すものだと言ってよいでしょう。

私の持っている この図鑑の1980年の復刻版には、いろいろ内容的な追加訂正が巻末についています。この訂正は1934年の原著のなかに組み込まれているように入っていて、いつのものか不明ですが、いずれにせよ、こちらにはこの種名の訂正は載っていません。山階博士は本当は気づいていながら、「内容に関係ないからよろしいでしょう」とおっしゃったのでしょうか?

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山階博士続きで大変申し訳ないですが、たくさんの著作をものした方は、同じ確率で誤植があっても総数は増えてしまうため致し方ないということでお許しいただき、「世界鳥類和名辞典」(山階芳麿、大学書林、1986)から「ミカヅキチドリ」の登場です。

この誤植は熱心なバードウォッチャーの方にはそれなりに知られているのじゃないかと思いますが、英名Semipalmated Plover、学名Charadrius semipalmatusとも、「半蹼足(=半分みずかきのある足)のチドリ」という意味であることからわかるように「ミズカキチドリ」が正しい名前です。それにしても、胸に三日月模様のある「ミカヅキチドリ」なんて本当にありそうな鳥です。このように誤植側で意味が通じてしまうのは怖いですね。

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続いて、鳥類の適応放散について説明した「鳥の時代」(A・フェドゥシア、小畠郁生・杉本剛訳、思索社、1985)から、「キツキツ目」です。なんだか、マダガスカルあたりの原生林に人知れず生息していそうです。正しい名前はもちろん「キツツキ目」です。

 

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上にあげた「ミカヅキチドリ」同様、誤植のほうでも意味が通ってしまうのが怖い例として「鳥類学名辞典」(内田清一郎・島崎三郎、東京大学出版会、1987)から、植物学的誤植、「ナンベイコマツナギ」をご紹介します。コマツナギは日本をはじめ東アジアに分布するマメ科の小低木ですが、正しい鳥の名前はナンベイコマツグミです。担当された編集者や印刷業者さんは植物学の印刷物も作られていて知識があったことが裏目に出たのでしょうか?

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こちらは、特に名を秘す某団体の報告書にある「ズグロチャンチキチョウ」。「小皿と箸のある居酒屋に生息する」かどうかは知りません(笑)。ご存知のとおり、正しい名前は「ズグロチャキンチョウ」です。

最後は何の印刷物に載ったか私は知らないものですが、千葉県の行徳野鳥観察舎に長くお勤めで先年亡くなった蓮尾嘉彪さんから、野鳥識別のカリスマだった故高野伸二さんに聞いた話としてうかがった事例です。高野さんがある時、キセキレイの解説記事を書いたときに、この鳥の「チチン、チチン」という地鳴きに由来する『オチチンドリ』という地方名があるという原稿を書いたところ、印刷が上がってきてみたら、『ン』がもうひとつ追加されていたのだそうです。

・・・お後がよろしいようで(笑)。

(注)鳥類標識調査は、捕獲した野鳥に足環をつけて放し、再捕獲などによって移動や年齢などのデータを収集する基礎的な調査で、鳥の識別、年齢や雌雄の査定が重要です。

 

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