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2011年2月27日 (日)

スギ花粉症で問題なのは本当に戦後の拡大造林なのだろうか

S_2スギ花粉症の季節がやってきました。私もこの数日目が痒くなってきたので、そろそろお医者さんに行く必要がありそうです。スギ花粉症の近年の著しい増加は、戦後の拡大造林で花粉を出すスギの個体数が急増したことが原因としばしば言われているようですが、本当にそうなのでしょうか。素人ながら、私はそれに疑問を持っています(以下、以前別の場所に書いたものに加筆しました)。

私は東京オリンピック(1964)の記憶のある世代で、埼玉県西部の、江戸時代から続く林産地でスギ・ヒノキの山に囲まれて育ちました。ですが、子供のころ、春先になると目が痒くて涙や鼻水が止まらなくなるような人は身近にいませんでした。またそんな人の噂も聞きませんでした。私より数歳年長で、神奈川県西部の同じく林産地で育った人も、縁側に指で字が書けるほど花粉が飛散していたが花粉症はなかったと言っています。

戦後の拡大造林で、全国規模で考えれば、花粉を出すスギの個体数が急激に増加したことは事実かも知れませんが、林産地に育った身からすると、現代の都会でどんなに花粉量が多くても、自分が育った環境より多かったはずはないと思えます。また、もしも花粉だけでスギやヒノキの花粉症になるなら、江戸時代から大規模な林産地であった木曽や秋田などで、風土病としての花粉症が記録されていないのはおかしいと私は思います。

この点について、「環境問題としてのアレルギー」という本が興味深い情報を与えてくれます。

【タイトル】環境問題としてのアレルギー
【シリーズ】NHKブックス749
【編著者】伊藤幸治 


【出版社】日本放送出版協会

【発行年】1995
【ページ数】221pp.

【価格】866円(税込み)
【ISBN】9784140017494

本書によると、スギ花粉症を最初に疾患として提示したのは日光の病院に勤務されていた斎藤洋三医師で、1964年のことだったそうですが、つまりその少し前までは非常に稀か存在しないに等しい病気だったということです。

日光での研究では、1960年代から時間を追っての花粉症の出現頻度と、日光いろは坂の交通量の間に顕著な関連が見られたそうです。また、1980年代中葉に日光市内の各所で調査したところ、スギが多く花粉数も多いが交通量の少ない地区と、花粉数が少なく交通量の多い地区で、後者のほうがスギ花粉症の発生が多かったことが観察されているそうです。

これらのことから、花粉症は大気汚染が大きく関与しているという考えが研究者のあいだでもあるそうです。そうであるならば、花粉症が近年になって急激に増加したことの説明がつきますし、自分の子供時代にまったく花粉症がなかったことともつじつまがあいますので、私は素人ながらその考えに賛同します。

もうひとつ拡大造林では説明がつかないと考える理由があります。私の子供のころは花粉症以外のアレルギーやアトピーといわれるものも話題にはほとんど上りませんでした。アトピーという言葉は当時聞いたことがなく、アレルギーも、そういう病気があるのは話には聞くけれど実際に罹った人には出会ったことがない、というようないわば特殊な病気だったと思います。

それがご存じのように今ではありふれた健康問題になっています。スギ・ヒノキの花粉症だけが増えたのなら拡大造林が原因の可能性があるかもしれませんが、その他のアレルギーも同時に増えてきたという大きな文脈を考慮した場合、花粉症の根本的な原因をスギやヒノキが増えたことに求めるのは説得力がないと思います。

花粉症を初めとするアレルギーの増加の原因としてはむしろ、大気や水などが人間活動由来の微量物質に汚染された環境汚染を疑うべきではないのでしょうか。花粉の出ないスギの開発なども進んでいるようで、それはまったく無駄ではないかもしれませんが、所詮対症療法に過ぎず、アレルギーの増加を抑える抜本的対策は別のところに求めなければならないように思います。

 

(※  この記事で私が「スギ花粉症のひきがねとなる物質(アレルゲン)はスギ花粉ではない」と主張をしていると誤解されている方がいらっしゃることに気づきましたので、この点について改めて下記コメント欄に「追記3」を追加しました。ご一読ください。<2016年3月5日>)

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コメント

【追記:植物生態学者の意見】
 
最近、植物生態学者の辻井達一氏(北海道大学名誉教授)がスギ花粉症とスギ拡大造林の関係について下記のように書いているのを発見しました。
 
「もう一つ聞きたいのは、ではスギを昔から扱ってきたり、スギ林の近くに住んでいる人には花粉アレルギーはないのか、あるいは激しくないのか、ということだ。今まで、そんな話は聞いたことがないし、スギ林を扱うのはそういう点で大変だった、とも聞かない。抗体ができるのだろうか。花粉量が増えたとはいえ、人間の側に問題はないのだろうか。そこのところを是非、知りたい。」(辻井, 2006『続・日本の樹木』中公新書. 中央公論社)
 
スギ花粉症は抗体が働いてしまって困る病気なので「抗体ができるのだろうか」というコメントはご愛敬としても、高名な植物生態学者も、昔、スギに濃密に接していた人に花粉症があったわけではないこと認めており、別の原因によって人間の側の感受性に変化が起こっていることを疑っていることがわかりました。

スギ花粉症の張本人は戦後の拡大造林という説はやはり、わかりやすい相手に犯人を押しつけて背後にある大きな黒幕から目をそらすもののように私には感じられます。

【追記2: アレルギー全体の増加】

2013年12月16日の文部科学省の発表によると、公立小中高の児童生徒約45万4千人、全体の4.5パーセント、すなわち約20人に1人が食物アレルギーがあることがわかったそうです。

私の学んだ小学校は当時マンモス小学校で、1クラス50人弱のクラスが学年に6クラスありましたが、「誰ちゃんは××が食べられない」ということを聞いたことがありませんでした。もちろん好き嫌いで給食を食べずに、居残りで食べさせられているような子供はいましたが、健康問題で特定の食べ物が食べられない子供がいた記憶はありません。全員が同じ給食を食べており、違う献立が用意されたり自分だけ弁当を持参したりという子供はいませんでした。もちろん1学年300人の情報を全部把握はしていなかったかもしれませんが、少なくとも自分のクラスにはそういう人はいなかったし、両隣のクラスにもいませんでした(この年頃の子供は特別扱いに類することには敏感なことを考えると、そういう記憶が一切ないということは、おそらく、学年全体でもいなかったのだと思います)。

この調査は2004年にも行われており、そのときは約33万人、2.6パーセントだったそうで、この9年のあいだにも増加していることがわかります。もちろん上記のように私の子供の時には事実上ゼロに近かったと考えられるわけで、その意味では食物アレルギーも爆発的といってもよいほどに増加しているわけです。

このことは本当に驚愕すべき結果で、ブログ本文にも書きましたが、花粉アレルギーの増加もこういった文脈の中で考える必要があると思います。つまりこういったアレルギー全般の増加の背景にある大きな原因をこそ特定し、解消することに最大限の力を注ぐべきで、スギから別の樹種に切り替えるとか、花粉の出ないスギを開発するといった対策は、さきに書いたようにまったく無駄とは言えないかもしれませんが、的を射たものとは言えないだろうと強く思います。

【追記3: 一部に誤解があるようですので追加説明】

インターネット上を見てみますと、この記事について誤解されている方がいくらかいらっしゃるようですので、改めて追記いたします。私は、スギ花粉症の発症のひきがねを引いている物質(アレルゲン)がスギ花粉ではない、と主張しているのではありません。スギ花粉症の方は、スギ花粉がアレルゲン(抗原)であることを、病院で簡単な検査をして確かめることができるわけです。

私の言っているのはそういうことではなくて、昔から地域差はあるにせよ普遍的に存在していた物質であるスギ花粉をひきがねとしたアレルギー反応をおこす人が、50年前は皆無だったのが、今はたくさんいるようになった、つまり我々が本来反応する必要のない物質に対して免疫反応を起こすようになったことについて、その根本的な原因をスギ花粉の増加に求めるのはおかしいのではありませんか、ということです。

50年前、各種の食物アレルギー反応を起こす人も皆無(あるいはごく稀)でした。それが現代では卵や小麦などありふれた食材をアレルゲンとしたアレルギーは珍しいものではなくなっています。ではその根本原因は、たとえば卵であれば、戦後70年間、鶏卵の安価な安定供給に努力した畜産関係者や農水省官僚の方達のおかげで、卵が安くいつでも手に入るようになったことにあるのでしょうか?戦後営々と努力なさってきた畜産関係者や農水省官僚は糾弾されるべきなのでしょうか?そんなことはありませんよね。何か別の原因によって、以前は反応しなかった卵に反応しする人が今はたくさんいるようになってしまったわけです。我々がしなければならないのは、その何か別の原因を探すことのはずです。

スギ花粉症もこれと同じことで、スギ花粉に不必要に反応してアレルギー反応を起こす人が以前は皆無だったのが、今はたくさんいるようになった、我々のそういった体質変化をもたらしたものが何かを探すのが大切だというのが私の主張です。

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