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2009年7月26日 (日)

ウナギがとんでもないことになってる

Sウナギは以前は特別なときに食べる食材だったと思いますが、ここ15年ほどの間にスーパーなどの店先で日常的に売っている食材になりました。その裏でウナギの世界に何が起こっているかを本書で知り、大変驚きました(少し前に読んだ本の紹介です)。

【タイトル】ウナギ 地球環境を語る魚
【著者】井田徹治
【出版社】岩波書店(岩波新書新赤版1090)
【発行年】2008

【ページ数】222+iv+4pp.


【価格】740円+税


【ISBN】978-4-00-431090-7

本書の前半では、ウナギの生態と生活史、産卵場所の探求の歴史と現状、養殖研究について紹介されています。

前半の記述で特に印象深かったのは、ウナギ(ニホンウナギ)がその生活史を全うするためには、海洋から河川の上流まで、水域の様々の環境が保全されていないといけないという点でした。つまり、海洋環境とくに産卵場所と考えられるマリアナ諸島西方の海山、またシラスウナギが河川へ遡上する前に休む河口部の汽水域の干潟環境が保たれており、河川が下流から上流までダムや河口堰や護岸に遮られることなく自然の多い状態であることなどなどがウナギのために必要なのです。

そのために現代のウナギは、たとえば川だけとか海だけとか河口部だけとか、比較的狭い環境だけに依って生きている魚に比較して、有効な保護施策を立てることが困難で、より大きな困難に直面しているというのです。

Photo_2後半は、日本を含む国際的なウナギの激減がテーマで、非常にショッキングな内容です。

生物学的な種が異なる、ニホンウナギ(東アジア産)、ヨーロッパウナギ(ヨーロッパ産)、アメリカウナギ(北アメリカ産)のいずれものシラスウナギ(稚魚)の資源量が1970年代から2000年前後にかけて激減しており、それは急激に拡大する日本の需要を満たすために起こったことだというのです。

ウナギは、産卵からの養殖は確立されておらず、現在の養殖では、海で生まれた野生のウナギが小さなシラスウナギにまで成長し、川を遡上しようと河口に集まったところで捕獲され、養殖されるわけですが、日本で消費されるウナギのために、ヨーロッパやアメリカでシラスウナギが乱獲されているのです。そのシラスウナギは、台湾や中国に輸出されて養殖され、蒲焼きなどになって最終的には日本で売られるのだそうです。

そのために1990年代後半にはヨーロッパやアメリカで異常なシラスウナギ漁獲ラッシュが起こったこととか、ヨーロッパでは伝統的なシラスウナギ料理が価格高騰で食べられなくなったこと、減少に対処する規制が行われたために産地偽装、密猟、密輸などが行われること、ヨーロッパウナギが養殖用に日本に入れられたために、日本の野外でも相当の割合でヨーロッパウナギが生息していることなど、いろいろ驚くべきことが起こっていることが書かれています。

将来にわたって漁獲が続けられるためには資源管理という視点が必要ですが、ヨーロッパウナギではそういった試みも後手に回っており、2007年にはヨーロッパウナギがワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の対象種になることが決まったそうです。

ある日本人研究者がヨーロッパ人研究者から「日本人はニホンウナギを食い尽くして、今度はヨーロッパウナギを食い尽くす気か」となじられて返事ができなかったというエピソードが印象的でした。

最近、ウナギがスーパーで安く売られるようになったことには気づいていましたし、河川などの環境の改変でずいぶん以前から日本の天然ウナギが貴重になっていることは認識していました。しかし、日本での消費のために世界中でこんなにとんでもないことが起こっているとは知りませんでした。そもそも日本で売られているウナギに外国産の別種が相当含まれているということ自体、はっきり考えたことがなく驚きました。

身近な農水産物が私たちの手にとどくまでにどんなことが起こっているかについては、「バナナと日本人」(鶴見良行、岩波新書. 1982)「エビと日本人」(村井吉敬、岩波新書. 1988)といった書籍がありますが、本書もやはりこういった本と同様、日本人の消費者として読んでおくべきものと思いました。

また、世界のウナギを消費している日本として、ただ商業的に成り立てばよい、ということではなく、ウナギを取り巻く自然環境の保全、またウナギ資源の保護について考えた行動が必要であろうと感じました。

著者はジャーナリストですが、生物学的な内容から、社会的な問題まで非常によく調査しており、信頼のおける記述になっていると思います。この文では触れませんでしたが、産卵場所の探求、養殖法の研究についてもよく調査されて興味深く書かれています。

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