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2009年3月22日 (日)

刺激的!東アジアの英文鳥類図鑑"Birds of East Asia"(2)

イギリス人鳥類学者マーク・ブラジルさんが書かれた東アジアの鳥類図鑑Birds of East Asia(Mark Brazil, 2009. Christopher Helm)の紹介の後半です(前半"Birds of East Asia"(1)はこちら)。

(続き)
また、国ごとの新記録種の取り上げ方も大胆で、これは日本産鳥類として認めるに十分なきちんとした裏付けのある記録があるのだろうか、という鳥も日本から記録があるように書いてあります。私は必ずしもこの辺の事情に詳しくないですが、アメリカガモ、クロキョウジョシギ、タイワンヒバリなどはしっかりした裏付けがあって日本産と認められているのでしょうか?

実はこの点についても著者は前書きで述べていて、「私は取り込む方向に間違う道を選んだ。その中のいくらかの種は(たとえ現在、確実にそうでなくても)必ず将来この地域に出現するだろうという考えからである」というもので、いわば「疑わしきは拾う」という姿勢を前書きで宣言しています。

さて、図鑑といえば図版のできが気になるところですが、本書の図版はいずれも欧米人の名前を持った14名の画家が描いており、全体に美しくよく描けており、魅力的な図鑑になっています。

ただ、種により、図版によっては、あまり褒められないものもあります。特に思うのは、やはり鳥を地元で見ていないとわからないんだろうなという絵があることです。

鳥類研究者の内田康夫さんが、日本で鳥の絵を描く人に向けた文章のなかで、「外国の優れた鳥類画家といえども、自分の見たことのない鳥、たとえば、日本の特産種などは描けない。またたまに描かれたものがあっても、それは、やはり本物らしくない。だから日本の鳥を上手に描く努力は、大いに価値がある」(内田康夫・薮内正幸, 1976. 鳥の描き方. 別冊アトリエno. 121)と書いていますが、まさにそのことを感じます。

たとえば、欧米人が識別に夢中になっている、シギ・チドリ類、カモメ類、ムシクイ類、タヒバリ類などはよく描けた絵になっているいっぽう、識別の心配が少ないアジアの特産種、といったあたりにところどころ悲しい絵がまざっています。

たとえば、ヤマドリの絵は、野外で見るヤマドリの美しさを知っていたらこうは描かないだろうという、ヤマドリファンにはちょっと悲しい絵です。また、ミゾゴイやヒヨドリの色彩や全体の感じ、オーストンヤマガラの大きさ(本州産のヤマガラと同じサイズに描いてある)など、地元住民にはいろいろ細かい突っ込みの入れられる余地があります。

いろいろ気づいたことを書いてきましたが、全体としてみたこの本はやはり東アジアの野鳥観察に大きな貢献をする図鑑になっていると思います。

貢献の第一点として、欧米人にとって待望の1冊ということが挙げられると思います。この地域の英文野鳥図鑑として、まず日本には「フィールドガイド日本の野鳥」(日本野鳥の会)の英語版(Sonobe, K. ed. 1982. A Field Guide to the Birds of Japan. Wild Bird Society of Japan.)がありましたがすでに長らく入手不可となっていました。韓国には英文図鑑がありますが、たしか台湾にはないはずです。こういった点から、東アジアをカバーした英文図鑑というのは、特に欧米人にとっては長年待望のもので、歓迎される1冊でしょう。

また日本人にとっても、日本だけに絞った図鑑ではなく、近隣諸国までカバーした図鑑は、広い視野から日本の鳥を考えられるという意味で刺激的なものと思います。分類や識別の知見が近年向上している一部の分類群について日本のウォッチャーが勉強するときに、これまではヨーロッパやアメリカで使うことを念頭に置いた資料を読むしかないことが多かったわけですが、東アジア向けにまとまったこの図鑑は役に立つことでしょう。隣接地域の鳥が載っていることは、珍鳥をもとめて離島に出かけるときにも役立つでしょうね。

高次の分類すなわち科の配列が新しい研究によっているのも、日本の鳥好きにとって刺激的でしょう。また種分類の細分主義(独立種を多く認めていること)や、新記録種が取り込まれていることも刺激的なことと思います。ただ、種分類と新記録種については上に書いたように、著者はかなり大胆な姿勢で臨んでいます。少なくとも、本書を見て「欧米の権威が書いた文献にこう書いてあるから絶対だ」というふうには受け取らないほうが良いだろうと思います。

英文で書かれていることや図版に多少とも突っ込みどころがあることからして、日本人が日本国内に鳥を見に出かけるときに1冊だけ持ってゆくとすれば必ずこの図鑑、という本ではないだろうと思います。しかしこの図鑑は、日本という地元に住むバードウォッチャーとして、絵も含めて、記述についても、勉強になるところは勉強しつつ、突っ込みを入れるところは突っ込みを入れて楽しめる図鑑として、大きな価値ある一冊と思います。

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