« ねぐらのキジバト(2) | トップページ | 「鯨類・鰭脚類」〜動物画家藪内正幸 若き日の傑作 »

2008年10月17日 (金)

“後羽”~赤い羽根の鳥類学

S毎年秋になると共同募金の赤い羽根を目にするようになります。共同募金は1947年に始められ、現在は社会福祉法という法律で裏づけられた募金活動です。

その共同募金に募金をしたしるしとして配られるのが「赤い羽根」で、よく知られているように白いニワトリの羽毛を染めたものです。中央共同募金会のサイトにも、「不要になった鶏の羽根」を使っていると書いてあります。
 
鳥の「羽根」といいますが、学問的な用語としては「羽毛」を用います。羽毛という大きなくくりの中に、赤い羽根のように中央にしっかり羽軸があって、左右に板状の部分(羽弁)のある「正羽(せいう)」(または「真羽(しんう)」)、ダウンジャケットの中に入っているような、左右の羽弁をもたない、ポヤポヤの「綿羽(めんう)」、両者の中間的な特徴の「半綿羽(はんめんう)」などが含まれます。

これらの用語の使い方は、たとえば「動物系統分類学」10(上)(黒田長久, 1962. 中山書店.)や、「鳥類学辞典」(山岸哲ほか(監修), 2004. 昭和堂. )等、広く参照されている教科書や辞典類に共通に採用されている標準的な用法です。ネット上には羽毛に関してこれと異なる不思議な語義を解説しているページがありますが、どのような典拠によってそのような用法を使っているのか不明で、従うべきでないものと思います。

さて、ニワトリの体を覆う「正羽」である赤い羽根を見てみますと、羽毛の裏のつけ根近くに小さな「ミニ羽根」がついています。これが「後羽(こうう)」(aftershaft、afterfeather)と呼ばれるもので、あるグループにはあり、あるグループにはなし、別のグループは痕跡的という具合に分類群ごとにあるていど大きさが決まっています。

ヴァン・タインとバーガーという二人の人の著した鳥類学の教科書(J.Van Tyne and A. J. Berger, 1959. Fundementals of Ornithology. John Wiley & Sons, New York.)によると、後羽があることは原始的な形質だが、その退化ないし消失は進化の過程で一様でなく起こったとされています。つまりいろいろのグループの鳥でそれぞれあったりなかったりする、というわけなのです。

この教科書によると、後羽がもっとも大きいのはダチョウに近いエミューとヒクイドリで、羽毛本体とほぼ同じ長さがあります。こちらのサイトにエミューの羽毛の画像があります。一枚の羽毛が本体と後羽でV字型をなしているのがわかります。鳥の専門家ではない人のサイトでは、「エミューの羽毛はひとつの軸から2枚の羽毛が伸びている点で世界中の鳥の中でも特異だ」などと書いているものもありますが、これはもちろん誤りです。

次に後羽が大きいのが、シギダチョウ類とほとんどのキジ・ライチョウの仲間だそうです。ニワトリはキジ科ですから、まさに後羽が立派な仲間というわけです。上の写真の赤い羽根でも後羽の長さが本体の1/5近くあり、またしっかりした羽軸のある「ミニ羽根」状で、なかなか立派なものです。

そして、グループによって後羽にしっかりした羽軸がないもの、ごくわずかな繊維が生えているだけの痕跡的なものがあり、そして最後にはハト類のように後羽がまったくないグループに至ります。

教科書に、後羽の退化や消失が進化の過程で一様でなく起こったとしているのは、つまり後羽のないハトが一番進化しているとか派生的だ、というわけではない、ということなのでしょうね。

なお、後羽は風切羽などの翼の羽毛や尾羽にはなく、体羽だけにあります。

« ねぐらのキジバト(2) | トップページ | 「鯨類・鰭脚類」〜動物画家藪内正幸 若き日の傑作 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/94469/24569565

この記事へのトラックバック一覧です: “後羽”~赤い羽根の鳥類学:

« ねぐらのキジバト(2) | トップページ | 「鯨類・鰭脚類」〜動物画家藪内正幸 若き日の傑作 »

最近のトラックバック

2018年10月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31