「ヒナを拾わないでキャンペーン」運用にもうひと手間が必要では?
画像は、5月下旬に千葉県北部の某新興住宅地の町の情景です。小さな切り通し状になったこの場所から画面の外右側50メートルほどは畑になっていてその先に屋敷林があり、そこにハシブトガラスの巣があったようです。上手に飛べないヒナは順々に畑を進んできてこの小さな切り通しの下の道路に落ちてしまったようすです。
親鳥はもちろんいますが、ヒナも親鳥もどうすることもできません。道路は車が通りますからヒナがふらふらと道路に出れば車に轢かれる可能性もあります。またここは小学校の近くで、小学生がヒナを助けようとすれば場合によって親鳥の攻撃にあう可能性もあります。
日本の主要な鳥類保護団体はもう何年も合同で「ヒナを拾わないでキャンペーン」(日本野鳥の会・日本鳥類保護連盟ほか)を実施しています。
その趣旨は、親鳥が世話をしているヒナをそれと気づかず持ってきてしまう「善意の誘拐」を防ぐことがおおもとにあり、その上、ヒナの生存率はもともと高くなく、ヒナが落とす命を食べて別の命が生きているという自然の仕組みに気づいてほしいという意図もあると思われます。また、素人が保護飼育しても自然に返せるように育てるのはむずかしいということもあります。
こういった背景を踏まえてこのキャンペーンでは、「ヒナは一切拾うな」というようなことは言わず、「救護が必要でないヒナまで保護してしまわないように気をつけましょう」ということを訴えています。具体的には、「近くに親鳥がいる場合にはそのままにしましょう」という点がひとつの大きな柱になっています。
その主張は、ヒナの生存率はもともとごく低いものだという論点と、最低限の救護は当然するべきだという議論の、おそらく常識的な妥協点をついていると思いますが、このキャンぺーンの実際の運用についてはいささか改善が必要ではないかと思われる点があります。
このハシブトガラスの例でも、地元の自治体の鳥獣保護のセクションに電話をしたら「親鳥がそばにいるならそのままにしてください」というのが電話口での対応でした(このキャンペーンは自治体の担当セクションにも相当周知が行き届いているのです)。
ですが、実際に現場に立ってみれば、親鳥がどうにもできないのは明らかです。ヒナが自動車に轢かれるのも自然の摂理だから救護は一切不要、というのであれば別ですが、このキャンペーンはそこまでは言っていません。
この例に限らず、行政に電話をしたら、ヒナの種名も、現場の状況も分からないのに、「ヒナはそのままにしておいてください」と言われたという事例をよく聞きます。

たとえば、画像は茨城県南部の住宅団地の中の商店街の街路樹ですが、数年前に画像の右側の木でツミというタカが営巣して、巣立ちヒナが全面舗装の商店街のなかのある一軒に入り込んでしまったことがありました。この事例でも、行政の電話対応は「そのままにしておいてください」ということだったそうです。
ハシブトガラスの例もそうですが、ツミの例も、実際に現場に立ってみると、そのままにしておく、という行政の鳥獣担当者の指示が適切だとはとても思えません。
一般市民の方が鳥のヒナを保護した際の第一報の電話はふつう、なんのグループの鳥かも、発育状態も、周囲の状況もよくわからない場合がほとんどです。そのような状況で、「ヒナを拾わないでキャンペーン」をよりどころに、「親鳥がいるならそのままに」という答えをしてしまうのは乱暴と言われても仕方ないと思います。
行政の方がヒナの保護以外にもさまざまの案件に忙殺されて、いちいち現場まで出かけていられないのはよくわかるのですが、こういった事例を見聞きすると、やはりせめて鳥のわかる人が現場にいって、鳥の種が何で、どんな状況なのかを見て、どのような対処が必要か、必要でないかを考えることが望ましい場合が少なからずあるように思います。
行政の人が多忙なのであれば、地元の鳥類保護関係者のネットワークをうまく活かしてそういった血の通った対応をとることが必要なのではないでしょうか。
ちなみに上のハシブトガラスのヒナは、発見者から連絡をうけた鳥類研究者によって50メートルほど離れた営巣木があるとおぼしき屋敷林まで運んで低い枝に止まらせるという対応が取られました。ツミの事例も、行政経由ではなく別ルートで、地元のバードウォッチングサークルのメンバーに連絡が行き、その方が現場に出かけた結果、なんと消防署のはしご車を特にお願いしてヒナを樹上に戻したということです。


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