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2006年12月16日 (土)

スズメの頬の黒斑に名前があるって本当?

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バードウォッチングをしない方が、バードウォッチャーに会って謙遜して言う言葉として「私はスズメとカラスしかわかりませんから」という言葉があることは、古来(?)知られています。そして、「そういう人に限って、たとえばスズメの頬に黒斑があることをご存じないのだ」ということも、バードウォッチャー側の主張として古来(?)語られているところです。

こういった話は私もよく聞いていましたし、実感してもいたのは事実です。

ですので、あるとき、鳥についてはほぼ素人といってよい、会社づとめの若い方が、突然、「スズメの頬の斑点は『ニュウ』っていうんですよね」とおっしゃった時にはびっくりしました。

みなさん、「ニュウ」なんて言葉聞いたことがありますか?スズメの頬の黒斑に名前が付いてるなんて知ってました?それって本当なのでしょうか?

じつは、この方がこれをおっしゃったのは、ニュウナイスズメの話題が出たときだったのです。ニュウナイスズメは、中部地方以北のやや冷涼な環境で繁殖し、秋冬には南に移動するスズメの仲間ですが、これには頬の黒斑がありません。

「ははあん、これは誰かにかつがれたな」と、私が思ったのも無理はありません。

この方は先ほど書いたように、バードウォッチングはほんの駆け出しというか、ほとんどなさっていない方だったのですが、実はこの方が仕事で日々付き合いのある先輩に、鳥歴が長くて、鳥関係の大物と言われる人とも付き合いのある方がいらっしゃったのです。

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古いバードウォッチャーには冗談がお好きな方がとても多いのです。「ニュウナイスズメ」には黒斑がない、「ニュウ」ない「スズメ」に黒斑がない、つまり「ニュウ」は黒斑、なんてそういった方達が大好きな駄洒落としてめちゃめちゃありそうです。

それで、そのときはその方に、それは駄洒落でしょう、と言って終わりました。その後、その話がちょっと面白いので、別の場所でもときどき笑い話として話していたのですが、不思議なのは、古いバードウォッチャーの方達にこの「ねた」を振ってもご存じの方に会ったことがない、ということなのです。

最近やはり古いバードウォッチャーの方とこのことを話したのですが、やはりご存じなかったことがあり、ひょっとしてこれは「ねた」ではないのでは、と思い始めました。

そこで調べたのは、江戸以前の鳥の和名のことで疑問に感じたら、まず見るようにしている本、菅原浩・柿澤亮三のお二人の渾身の労作「図説日本鳥名由来辞典」(柏書房、1993)です(注1)。その本で「にうないすずめ」の項を見ると、大言海から「にふないは新嘗(にひなへ)の訛、新稲を人より先に食む意かと云う」という記述を引いて、ニュウナイスズメは未熟の稲の種子を好んで食べるため、この説は妥当と思われると述べています。若い稲を食べるから「新嘗(にいなえ)スズメ」いいじゃないですか。なあんだ黒斑なんか関係ないじゃんと思って先を読むと、「一方、柳田国男は、ニュウ(ニフ)は頬の黒斑で、ニュウの無い雀としている」(野鳥雑記)と書いてあるじゃあ〜りませんか!!!

ガビーン!!!、まじめに「ニュウ」は黒斑、という説を唱えた人がいたのですね。それも、どこの誰だか分からない人ではなく、「遠野物語」などで有名な民俗学の大立て者で、日本野鳥の会創立の発起人の一人でもある柳田國男ではないですか。先の若い方、あるいはその方の先輩は、「ニュウ=黒斑」説を、誰か冗談好きのウォッチャーから聞いたのではなく、ご自身で柳田國男を読んで情報収集されていたのかも知れません。

と反省したのはしたのですが、やはり「ニュウ=黒斑」説は冗談くさく思えてなりません。ひとつには「ニュウ」なんて言葉聞いたことがないことがあります。たとえば、何か別の生き物か何か知りませんが、別の黒い斑点がよく似た名前で呼ばれているのであれば、それは状況証拠として重要でしょうが、そんなの聞いたことがありません。それから、もうひとつの問題は「ニュウ『ない』スズメ」の「ナイ」です。

少なくとも私の感じる「和名感覚」として、何かが「無い」ときに、「ナニナニ『ナイ』ナニナニ」という名前は付けないと思うのです。付けるとすれば、「ナニナニ『ナシ』ナニナニ」ではないでしょうか。

たとえば、「オビナシショウドウツバメ」、「オナシアゲハ」、「アシナシイモリ」、「トゲナシトゲトゲ」という具合です(注2)。分類学上の名前じゃないですが、「種なしスイカ」なんていうのもあります。

そういうふたつの点から考えると、どうも柳田國男の説は胡散臭いように思います。「ニュウ」という言葉の存在がそもそも非常に怪しいのにくわえて、もしそういう言葉があっても、その「ニュウ」がないスズメは「ニュウナシスズメ」とするだろうと思うのです。やはりこれは一種の冗談の類として観察会の「ねた」にした方がよい、というのが今のところの私の結論です。

(写真上:スズメ、写真下:ニュウナイスズメ)

(※スズメとニュウナイスズメについて切れていた外部リンクを外し、代わりに画像を追加しました。<2013年6月>)

(※注1: ニュウナイスズメの語源説としてはほかに、平安中期の歌人で、「小倉百人一首」にも歌が選ばれている藤原実方(ふじわらのさねかた、?〜998)の生まれ変わりという説もあるのを知りましたのでコメントとして追記しました。<2016年5月追記>)

(※注2:オビナシショウドウツバメは、新大陸産のツバメの1種で帯がないのが特徴です。またオナシアゲハは、日本では沖縄県などで記録のあるアゲハチョウの仲間で、後翅に「尾」(=尾状突起)がないのが特徴。アシナシイモリというのは両生類ですが、足がなくてミミズのように見えるグループ(「目(もく)」)に属するものの名前です。トゲナシトゲトゲは、ハムシ科の甲虫のグループの総称で現在はホソヒラタハムシと言うらしいですが、棘がないというのが名前の由来です。<「オナシアゲハ」「アシナシイモリ」「種なしスイカ」の例を追加し、細かい解説を整えて、本文から注に移しました。2016年5月>)

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コメント

ちなみに、骨董の世界では、お皿のヒビのことを「にゅう」と言いますが、関係あるのでしょうか・・・。

ぐちやまさん、こんばんは。コメントありがとうございます。そういう言葉があるのですね。ちょっと気にしておきます。

こんばんは。初めてお邪魔致します。
大変面白いお話で大笑いしてたのですが、「にゅう」説は意外と奥が深いかも知れませんね。
「スズメ ニュウ」でWEB検索致しますと、こちらが一番初めにヒットしましたが、その他下記のようなWEBもありました。
しかし、スズメとニュウナイスズメの特徴を覚えられる、いい覚え方ですね。

Bird Land Photo
http://www.sakai.zaq.ne.jp/duagz909/belltree18/birdlandphotos/nyuunaisuzumeframe.html
>人より先に新嘗を食べる鳥なのでニイナメスズメ、という説とニュウは「ほくろ」のことでスズメのように頬に黒い斑がないのでニュウ無いスズメ・・・なるほどね

ギャラリー
http://www.valley.ne.jp/~goshawk/wbsj/gal/gallary2.html
>頬に黒斑がないニュウナイスズメに対比させて、「ニュウアルスズメ」と呼ばれることがあるが、もちろん冗談である。

都鳥@FSHIZEN

都鳥さん、ようこそお越しくださいました。

サイトのご紹介ありがとうございます。知りませんでしたが、なるほどすでに同じことを書いてる方がいらっしゃるんですね。誰でも同じことを考えるということでしょうか・・・

ニュウナイスズメの語源説としてはほかに、平安中期の歌人で、「小倉百人一首」にも歌が選ばれている藤原実方(ふじわらのさねかた、?〜998)の生まれ変わりという説もあるのを知りました。

「日本国語大辞典」第2版第10巻 (2001、小学館)によれば、「大和本草附録」二(1715)には、「入内雀(ニフナイスズメ)俗説に曰、本朝の実方中将、罪ありて歌枕求に、東につかはされしに、帰京せずして死せり。存生の間何にもして、今一度禁裡にかへり度思はれし、其霊化して雀となり、禁裡の台盤所に飛来り、食物をついばみし故、是を名て、入内雀と云(=俗説によれば、藤原実方が罪を得て、歌枕(和歌に詠まれた名所、しばしば僻地にある)を訪ねよと命ぜられて東国に左遷されたが、都に戻らずに死んでしまった。本人は生前、もう一度宮中に戻りたいという願いをいだいていたため、霊がスズメになって、宮中の台所に飛んできて食べ物をついばんだ、ということから宮中に入るスズメという意味で「入内雀」と名付けられた)」とあるそうです。この説は比較的有名なようですが、「図説日本鳥名由来辞典」がこの説を取り上げていないのはなぜなのでしょうか?単なる見落としなのか、あるいは、「大和本草附録」もわざわざ「俗説」と断っている上に、一読していかにも後付けな語源説だから取り上げなかったということなのでしょうか。

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