抗菌グッズ)百害あって一利なし!!
土曜日のトーク、なんだか準備不足が明らかで恥ずかしかった(汗・・)ですが、司会の方も暖かいフォローをしてくださり、なんとか終了(司会の方、聴衆の皆様、ありがとうございました)。今日は、先々週あたりに通勤電車でちまちま読んでいた本の紹介です。「薬が効かない!」というタイトルで、実際怖い内容ですが、細菌の進化の話としても興味深く、また私たちの自然に対する考え方を見直す材料を提供してくれる本としても重要と思いました。
【タイトル】薬が効かない!
【著者】三瀬勝利
【出版社】文藝春秋
【シリーズ】文春新書459
【発行年】2007
【ページ数】241pp.
【価格】680円+税
【ISBN】4-16-660459-7
私の親などの世代は子供のころ、感染症の特効薬がなく、結核やなにかで人が簡単に死ぬ時代に育ち、その後、抗生物質が華々しく登場して人が死ななくなったのを見ているので、抗生物質信仰がきわめて強い方も多く見受けられますが、その信仰が今や成り立たないばかりか、まさにその信仰故に、抗生物質が効かなくなっているということがこの本を読むとわかります。
31ページの図2に掲載されている、戦後日本での3種の抗生物質の生産量と、赤痢菌の薬剤耐性菌の割合の推移のグラフがすごいです。抗生物質の生産量が急増したのが1950年代前半、10年以内に薬剤耐性菌の割合が上向き始め、1960年代中頃には7〜80%が薬剤耐性菌、そのうちのほとんどが、3種に同時に耐性を示す(抗生物質の効かない)多剤耐性菌になったようすが示されています。
最近では、たかが風邪ぐらいということで無理をして肺炎を併発、それが薬剤耐性菌によるもので、抗生物質が効かずにあっさりと亡くなるというような、少し前はなかったような肺炎による死亡例も増えているということです。こういうのを読むと怖いなと思います。
私たちの祖先が、東南アジアの野鶏のなかから、あまり卵を産まないものは繁殖させず、卵をたくさん産むものを順に掛け合わせてついには毎日卵を産むニワトリを作ったように、私たちは、日々抗生物質を使って通常の菌を殺すことにより、せっせとより強力な薬剤耐性菌の改良にいそしんでいるというわけです。
耐性菌だらけになった原因として著者は4項目を挙げています。
(1)医療における抗生物質、消毒薬の乱用
(2)家畜や養殖魚への飼料添加物としての抗生物質の多用
(3)(植物病原菌対策の)農薬としての抗生物質の使用
(4)家庭内の消毒剤の大量使用と抗菌グッズの氾濫
著者はそれぞれに対策を検討していますが、(1)については、抗生物質をなるべく惜しみつつ使えば、再度耐性のない菌が優勢になるので、再び効果が復活することを説明しています。
(4)について、国民の清潔志向につけこんだ企業の行動により、一般消費者向けの抗菌グッズが氾濫している現状に厳しい警鐘を鳴らしています。抗菌グッズの使用により、耐性菌が増えることや、抗菌剤そのものによるアレルギーの起こるなどのリスクがあるのに、実際に感染症を防ぐ効果はほとんど期待できないことから、著者は、「健康な人は抗菌グッズを使わないほうがよい」と結論づけ、医療の現場向けのものなどを除いて、一般家庭向きの抗菌グッズの使用、製造を原則禁止することを提案しています。
自然環境の問題にかかわる仕事をしているものとして、田舎はともかく、町に住む方たちの一部に見られる過剰な清潔志向はいかがなものかと常々思っています。柵に切り分けてパッケージされた魚や、泥がきれいに洗い落とされた野菜しか扱ったことのない方がすでに大人になって子供を育てているというようなこともこのことに関係があるかもしれません。「どんな菌もいてはいけない」ということはないし、それは実現不可能で、共存してゆくしかない、ということが大きな教訓であろうと思います。
抗菌グッズを信仰している方も、うさんくさいと思っている方も、また抗生物質を信仰されている方も、そうでない方も、ぜひ一読されると良いと思います。
著者は国立の研究所の細菌部門で働いてきた薬学者で、センセーショナルなタイトルとは裏腹に、たとえばジャーナリストなどが目立とうとして書いた本のような、あやふやなことを背伸びして書いているようなことはまったくなく、論旨も明快で、非常に安心して読めます。一般向けに解説するのも得意であるらしく、技術的な詳細はなるべく避けるようにしながらわかりやすく書かれています。
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