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2006年5月30日 (火)

8千種の鳥を見たおばさん

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世界に約1万種といわれる鳥のうちの8千種の鳥を、世界で初めて見たおばさんの回想記と聞いて、人はどんな物語をイメージするでしょうか(少し前に読んだ本を紹介しています)。

【タイトル】Birding on Borrowed Time
【著者】Phoebe Snetsinger
【出版年】2003
【出版社】American Birding Association
【価格】19.95ドル
【ページ数】307pp.
【ISBN】1-878788-41-8

それは、お金と時間だけはたっぷりある、思い込みの激しい、非常識な、ろくに識別もわからないおばさんが、リーダーの識別してくれた鳥を盲目的にリストにチェックしてゆく姿でしょうか。鳥を見る楽しみとはかけはなれた、げんなりするような数のためだけのウォッチングが展開されるのでしょうか。

上記の予想のうち当たっているのは、主人公にはお金と時間がたっぷりあったということだけのようです。それはたしかにこの本を読みながらつくづく感じたのですが、以下に書くように、もしそれだけのことなら、こうやって紹介文を書いて誰かに教えたいような本にはならないでしょう。

この本を読んで驚いたのは、この人がただのお金と暇だけある、自分では鳥の識別のできないおばさんではなくて、探鳥旅行の前にはみっちり予習をして、近似種の識別点なども頭に入れてゆき、実際に鳥を観察するときも自分の目で見て納得することを重んずる、いわば正統派のウォッチャーであるということでした。

フィービ・スネツィンジャー(1931-1999)(ドイツ語読みではシュネツィンガーでしょうが、英語ではスネツィンジャーでしょうか)が、バードウォッチングに目覚めたのは、トップバーダーになる人としては非常に遅く、30代なかばのことだったそうです。子育てと家事の多忙のさなかに、隣家の奥さんが見せてくれた、春の渡りで通過中のキマユアメリカムシクイを見てから鳥を見る楽しみを知ったフィービは、地元のウォッチングのサークルに参加し、徐々にアメリカ国内から海外までも出かける、熱心なバーダーになってゆきます。

熱心とはいってもそれほどのハイペースで鳥を見ていたわけではない彼女に転機がおとずれるのは、40代の終わりに悪性の腫瘍が発見され、医師に1年の命と宣告されたときです。彼女は、抗癌医療の奴隷となってベッドの上に縛りつけられることを好まず、自覚症状がないことを幸い、たとえ数ヵ月でも日常生活ができる間はこれまでどおり鳥を見てあるくことを決断します。それから、文字どおり太く短くの精神で世界を旅して次々と新しい鳥を見てゆく生活が始まります。彼女は、数回の手術を受けながらも精力的にウォッチングを続け、けっきょく最初の癌の告知から17年生き、最後は癌ではなく、ウォッチングに訪れた4回めのマダガスカルでのバスの事故で亡くなります。この間、1995年に世界で最初の8000種ウォッチャーになるわけです。

この本を紹介したいと思った理由のひとつは、我々も「300種までもう少しです」とか「国内で400種見ました」などと言って楽しんでいる、ライフリスト(生涯リスト)をつけるウォッチングの、究極の形がここにあると思うからです。300種、400種の延長線上に8000種はあるわけで、それを達成した人はこういう考え方をし、こういう生活をし、こういうウォッチングをするのだというのは、おそらく多くのウォッチャーがちょっとは覗いてみたいものではないかと思います。そして先に述べたように、このおばさんのバードウォッチングに対する態度はごくきちんとしたもので、覗いてみるに耐えるものです。もちろん、なかなか猛烈な探鳥旅行の話もいろいろ出てきます。

それにしても、他人が順々に鳥を見て8000種に達する話というのは、読んで面白いのか、と疑問を持たれる方もいらっしゃるかと思います。私も読んでいる途中で、このまま順々に種数が増えていって途中から飽きないかと少し心配しましたが、その心配は杞憂でした。世界的な珍鳥や世界のごく限られた場所にしかいないような特産種にどうやって出会って、鳥はどんなだったかという、バーダーならぜひ体験してみたい情景はもとより、ウォッチングの喜びや悲しみ(?)について考えさせられるいろいろのエピソードや、内省的なコメントなどがいろいろ出てきて、非常に興味深いものがあり、最後まで大変おもしろく読みました。

ひとつだけ、日本に紹介するときの難点としては、録音のプレイバックによる誘引を多用していることでしょう。日本のように人跡未踏の場所のない国では、外国では行われているからといって、プレイバックが流行するのは鳥類保護上大変まずいと思います。

タイトルのBirding on borrowed timeとはどんな意味でしょう?辞書を引くと、be living on borrowed timeというイディオムがあり、死にそうな危機や病気で命を落とさず生きながらえていることを言うようです。タイトルはそのもじりなんですね。癌に冒されて、いつ自分の手元から失われてもおかしくないような、確実に自分の時間とはいえないような時間の中で鳥を見た、という意味なんでしょう。「かりそめの時に鳥を見る」というような感じかな?あんまりしっくりする訳じゃないですね。

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コメント

グーグルロゴをクリックしたのですが、日本では無名の巨人やったようで、10年前のこの記事が上位にあがっていました。たぶん彼女も8000種を観察できることになろうとは思っていなかっただろうし、それ
ゆえできたことのように思いました。

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